子どもに性教育する、となった時、たまに「どこまで伝えていいんでしょうか?」と聞かれることがあります。
子どもが小さい場合は特に、教えて外で言いふらしたらどうしよう、と心配になったり、「この内容はまだ早いかな」と大人側が線引きをしたくなったりします。
大人自身の中にも当然「言いやすい内容」「言いにくい内容」がそれぞれあるでしょう。
また、学校現場での性教育を行う際にも「これは言わないでください」と言われることもしばしばあります。
前のコラム「日本の性教育の現状」で書いたような『はどめ規定』もまさに、このような「どこまで教えるのが適切か」という考えから来ているのだと思います。
この問いに対して、整理していきます。
- 大人側からの線引きは不要
- 「教えたらいけない」のは嘘だけ
- 知識に関する内容と、プライベートな内容は分けて考える
大人側からの線引きは不要
私は基本的に、子どもに教える際に大人側が「ここまでの知識だったら伝えてもいい」という線引きをすることは不要だと考えています。
もちろん、子どもの年齢に応じた発達段階や、理解力の差はあるので、子どもの状況に見合った内容、というのはあります。
ただし「まだ〇歳だからこの内容を教えるのは早い」と線引きしてしまうのは、いわゆる『はどめ規定』と同じで、系統的な理解を妨げてしまいます。
※はどめ規定については、コラム「日本の性教育の現状」をご参照ください
基本的に、何事も”何かについて教える・伝える”ということは、一度きりで完了することは少ないでしょう。
繰り返し、色んな角度から説明を受けたり考えたりすることで、徐々に本質を理解をしていくものです。
性教育ではその内容の特徴から、どうしても大人側の気恥ずかしさを生んでしまったり、「まだこの内容は早いんじゃないか」という気持ちになってしまいがちですが、子供が小さい場合は特に、まだ理解できないことはスルーされ、分かるところから徐々に理解が進んでいきます。
だからといって分かりそうなことだけ伝える、という情報の選択を大人がわざわざしなくても良いのです。
そして子どもがある程度の年齢になったら、たいていの内容はすぐ理解できるようになってきます。
そんな時に与える情報の取捨選択をしたり、一部の情報だけ隠してしまうようなことをしたりするのは、理解に繋がりがなくなってしまい、事実とは少しずれた知識になってしまうことにもなります。
ユネスコが出している性教育ガイダンスでは、年齢別に段階が分かれており、各段階それぞれの学習項目が書かれています。
私はこれが示す意味を「この年齢でこの内容を教える」ではないと考えています。
(※上の画像は、性教育というイメージが繋がりやすい性行動や生殖に関する部分のみピックアップしたものであり、ユネスコによる国際セクシュアリティ教育ガイダンス(性教育ガイダンス)は性や生殖の内容のみならず、人間関係や人権など幅広くまとめています。性教育ガイダンスの内容はこの限りではありません。)
「レベル1ではこの内容を教える」
「レベル2ではこの内容を教える」
という意味なのではなく
『このレベルでこれくらいのことが理解できる』という意味で捉えています。
つまり、子どもの年齢がレベル1に該当するからといって、レベル2~4の内容を教えてはいけない・言葉に出してはいけない、ということではありません。
ただ、先のレベルの話に触れたとしても、そこまでの理解はまだ難しい。
色々伝えた上で、大方これくらいの内容が理解できる、という目安の内容。
そんな意味のものだと考えています。
「教えたらいけない」のは嘘だけ
子どもに教えたらいけないことはありますか?と聞かれれば、それは「嘘」だけじゃないかと思います。
逆に言えば、事実は全て教えてもいい、ということです。
ある親御さんからの質問で
「子どもから『SEXって気持ちいいの?』って聞かれたんですが、そんなこと教えちゃっていいんでしょうか」
というものがありました。
答えはYESです。
性行為に身体的な快楽が伴うことは事実です。
これは、そのことについて”積極的に教えましょう”というよりも、聞かれたのに事実と異なることをわざわざ言う必要はないし、隠す(タブー視する)必要もない、という意味合いで捉えて下さい。
そして、快楽が伴わない、苦痛になるSEXがあることもまた、事実です。
1つの事実だけで留めてしまうのではなく、多角的に説明することで、少し言いにくいと思ってしまうようなことも説明しやすくなるのではないでしょうか。
また、多角的に物事を捉えることは、性教育を通して人間関係・恋愛関係を考えていく上で、とても重要なことになります。
例えば、
「SEXは気持ちいいと感じる人は多くいるし、大好きな相手とだったらもちろん体の気持ち良さだけでなく、心が満足するような心地よさもある。
でも、それが大好きな相手じゃなかったら?自分はしたいと思ってなかったら?当然気持ち良さは感じない。
だからこそ、本当に好きな相手なのかどうかと、お互いがしたいと思っているかどうかを確認することが大事だよね」
という形で、相手との関係性をどう進めていくか、という話にもできます。
逆に、ここまでの話をするためにはSEXの話を避けていてできることではなく、知識が身についたからこそ、その次のステップの話に進んでいけるのです。
まさにユネスコの性教育ガイダンスのレベル4の段階の話で、そこに至る途中の話、前提となる知識に関する話を何もせずに、いきなりこのレベルの話はできないでしょう。
あともう一つ、これまであった質問を例にすると
「子どもに『うちは3人きょうだいだから、3回SEXしたってことなの?』と聞かれました。どう答えたらいいでしょうか?」
これも答えに迷ってしまいますね。
これに対しても「1回SEXしたからといって必ず妊娠するわけではない」という科学的事実を伝えて良いです。
人によって、また年齢によっても、妊娠する力(妊孕性)は人それぞれ違います。
もっと言うと妊娠するための方法はSEXだけではなく、人工授精や顕微授精という方法もあります。
だから、子どもの人数=SEXの回数じゃない。
そこからも、次は年齢による妊孕性の変化から、自分がいつ子どもを持ちたいか、あるいは持たないかも含め、ライフプランを話に繋げることもできますし、妊娠する方法はSEXだけではないということから妊娠=SEXしたと他人が簡単に判断するものではない、という話もできます。
このような話のステップアップが、すぐできる場合もあれば、それまでに時間を要することもあるでしょう。
それは子どもの理解力や発達段階にもよりますし、まずは伝えてみなければ、子どもによってどのような理解の流れになるかも分からないものです。
ただ少なくとも、根底の知識がないことには、話をステップアップさせることができません。
だからこそ、与える知識に線引きは不要なのです。
知識に関する内容と、プライベートな内容は分けて考える
先ほどの質問例からいうと、じゃあ実際に何回SEXしたのか?と聞かれた場合、これはプライベートな質問内容になります。
「事実は全て伝えていい」としたのは、あくまでも科学的事実や知識の部分です。
なんでもかんでも聞かれたら答えなければいけない、というわけではありません。
プライベートな質問に答えるかどうかは、聞かれた側が答えるかどうかを決めるものであり、「それは答えたくない」と拒否する権利は当然あります。
そのような時に大人自身がプライバシーを守る、という姿勢を見せることもまた、性教育になります。
誰かに質問を投げかける時や会話の流れの中で、自分の発言が人のプライバシーを侵害しないか?という視点を持つということも、性教育の中で是非伝えていきたいことの1つです。
このように、知識面での事実を包み隠さず伝えていくことで、性教育の幅はどんどん広がっていきます。
家庭でここまで進めることが難しければ、子ども自身が読める本を用意することも良いでしょう。
性教育の専門家が学校に出向いて性教育する場面などでは、できる限り線引きなく、子どもが今、あるいは将来いずれ必要になる知識を、包み隠さず伝えられることを願っています。