日本の性教育の現状

性教育講演でお話をしていると、学校教育の中ではまだまだ十分な性教育がなされているとは言えません。そしてまた、現在の子ども達だけでなく大人もまた、十分な性教育を受けてきたわけではありません。

教育現場で性教育はどのように組み込まれているのでしょうか。

日本の性教育の現状について掘り下げたいと思います。

・「性教育」と聞いて想像するもの

・教えてはいけない?「はどめ規定」

・性教育は、運次第?

・性教育=SEXを教える、ではない

1.「性教育」と聞いて想像するもの

「性教育」と聞いて、あなたは何を想像しますか?

よくあるイメージは、体のこと、生殖のこと、性別のこと、などが多く挙げられます。

性教育といえばまずはこれらのイメージが強いですし、また大人側が子どもに向けて「話しにくい」と思いやすい内容でもあります。

後述しますが、世界的な性教育のカリキュラムを見ると、性教育という分野の内容は体や生殖に関することだけではありません。

価値観や文化、暴力、人間関係など、非常に多岐に渡る内容が、性教育の中身として扱われています。

とはいえ、体や生殖に関することについて教えることが、一番ハードルが高いように思う方も多いため、まずはその部分の教育について見ていきましょう。

2.教えてはいけない?「はどめ規定」

子ども達が学校で使う教科書は、文部科学省管轄の学習指導要領に沿って作られています。

この学習指導要領の中で、体や生殖に関することがどこで出てくるかと言うと、まず小学34年生の保健の項目で「身体の発育・発達」「初経」「精通」についての内容が入ってきます。

その次は、小学5年生の理科の項目で、動物や魚などの発生・成長を学ぶ中で「人は母体内で成長して生まれる」ことを学ぶことになっています。この項目に関する内容の取扱いという部分には、「人の受精に至る過程は取り扱わないものとする」と書かれています。

中学の学習指導要領を見てみると、保健の項目で「生殖に関わる機能の成熟」や、感染症に関する理解の中で「エイズ及び性感染症」について書かれています。そして生殖の項目に対する内容の取扱いという部分には「受精・妊娠を取り扱うとし、妊娠の経過は取り扱わないものとする」と書かれています。

高校の学習指導要領になると、保健体育の項目の解説の中に家族計画人工妊娠中絶に触れられており、教科書の中にもでてきます。しかし、その中の内容の取扱い「生殖に関する機能については、必要に応じ関連付けて行う程度とする」と記載されています。

学習指導要領については、文部科学省のホームページで全文を見ることができます。

https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/1384661.htm

 

 

このように、学習指導要領の中で、少なくとも義務教育の中には性交・避妊・中絶に関する項目は出てきません。

さらに内容の取扱いでは学ぶ内容を制限するような文言が書かれていることが多々見受けられ、このことは俗に「はどめ規定」とも言われています。

学習指導要領に書いていないので、それに沿って作られる教科書の内容も、そこまでに留められます。

医学的に妊娠・出産を扱う立場から見ても、非常に部分的な内容であり、前後の繋がりが薄いように思います。

このように一部分だけの知識では、そこから繋がるリスクを把握したり、予防する行動に繋げることは難しく、また十分に理解をしないまま間違った情報を鵜呑みにすることになりかねません。

3.性教育は、運次第?

俗にいう「はどめ規定」がありつつも、これについて文部科学省は「絶対的に教えてはいけないのではなく、生徒の状況やニーズに合わせて扱ってもよい」としています。

しかし、教科書に書いてあること以上の知識を伝えようとしてくれる学校がどれだけあるでしょうか。

教科書に書いていないということだけでなく、学習指導要領には禁止のごとく書いてあることを、他の業務でも忙しい中で子ども達に伝えようとする先生方が、一体どれほど居るでしょうか。

よほど性教育に対する情熱が無い限り、教科書以上のことを学校で教えてくれている環境は少ないと考えられます。

性や生殖に関する知識を学ぶことは、そんな性教育に熱心な先生がその学校にいるかどうかという運に任せて良いことなのでしょうか。

特定の決まった子だけが性に関して悩むわけではありません。

誰しもが、どんな状況に陥るか分からない中、成績や家庭環境に関わらず悩みを抱える可能性があります。

性教育は本来、深く扱うか扱わないか?という次元ではなく、誰にとっても必要な知識として段階的にカリキュラムとして学んでいく必要があります。

4.性教育=SEXを教える、ではない

国際連合教育科学文化機関であるユネスコから出ている「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」では、大きく分けて8つの分野で教育内容が明記されています。

その8つの分野の中には、体や生殖の内容はもちろんのこと、それ以外にも文化や価値観、人間関係、暴力のことなども明記されており、学ぶ年齢も4段階の年齢に分けて段階的に学んでいくという内容が書かれています。

このように、8つの多岐に渡る分野を段階的にカリキュラムベースで学ぶ性教育のことを「包括的性教育」と言います。

日本の性教育はこれまでも、たびたびバッシングに遭ってきました。

その理由の多くが、性教育=SEXを教える、という印象から、それを子どもに教えるとは何事だ、教えることで興味を煽るなどの意見に繋がってしまっているからです。

もちろん、性教育の内容の中にSEXのことも出てきます。

しかし、それはあくまでも内容の1つというだけで、学びの途中経過に過ぎません。

SEXのことを教えるということがゴールでもなく、その後のリスクや守り方、人との関係性についてなど、その内容をまずは知らないことには新たな学びには繋がっていきません。

日本の性教育の現状は、知識量としても不十分なのはもちろんのこと、肝心なところをすっ飛ばすから理解が深まらず、間違った認識を持ち、知っていれば経験しなくて済んだトラブルも生んでしまう要因になっているように思います。

情報溢れるネット社会になっているからこそ、科学的に正しい知識を段階的に学んでいける環境を望みます。